いまむさん | 短編小説

うまく言葉に出来ない、心情を短い文章にまとめていけたらと思います。

四角い物体 | 3分短編小説

彼は思った。あと、どれくらい生きられるのだろうか?病気のせいもあるが、80年も生きたので、彼はそんな事を思った。

幼い頃の事を思うと、小学校のグランドの砂の感触、夏の暑さ、冬の寒さ、教室に流れ込む風を今でも思い出せる。教科書の折れ曲がって古ぼけた紙の質感や紙の匂いもだ。

もちろん、中学・高校・大学や、その時々での家族の事、友達の事、恋人の事もよく覚えている。昔の事程よく覚えているものかもしれない。

ただ、社会人になって数年した辺りから、記憶が薄すい。記憶が無い訳では無い。記憶が薄いのだ。

その頃から、この四角いスマートフォンという物を使い出した。社会人になれば、2-3回瞬きすれば、すぐ40代で気付けば定年。その後は老後生活と言われているが、それを助長しているのがこの四角い物体な気もする。

若いうちから、スマートフォンが教えてくれる。20代・30代で何をして、結婚するデメリット・メリット。貯金はいくら必要で、お金の節約方法はあれこれで、転職先はあちらとこちらと。

この四角い物体のおかげで、便利にはなったが、物事に対する深みは無く、記憶も薄い。道がわからない時は、相手と共通の目印になる建物を基準に、左に曲がって、真っ直ぐ100mくらいでなどと昔は会話をしたが、今はmap上で様々行き方をこの四角い物体は教えてくれる。

そんな四角い物体を見続けた人生が、彼の場合は20代半ばから始まって、今は年老いて体も自由に動かない。彼は、明日の朝を迎える事は出来ないかもしれない。自分の人生はこんなにも、自分の持っている記憶の様に薄い物だったのかと彼は思った。

明日には自分はこの世界にいないかもしれない。自分がいなくなる事。死んでいくという事はどうゆう事なんだろう。そう彼は疑問を持った。

その時、彼は四角い物体に文字を入力した。
“死んだ後はどうなる?”と。

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四角い物体

 

 

 

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